BLOG

意識は、どこから来るのか情報が動くところに生まれるなら、AIにも?

夜の窓辺の机で、丸めがねの男性がほおづえをついて上を見上げている。頭の上には点と線でつながった網のようなものが浮かび、横のパソコンの画面にも、よく似た点と線の網が光っている絵

いま、この文章を考えている「私」は、いったいどこにいるのだろう。

あるとき、こんな話を聞いた。
「意識は、ニューロンとニューロンのあいだを情報が行き来するところに生まれる、と言われているらしい」

もしそうなら、同じように情報が行き来している AI にも、意識はあるのではないか。気になって、調べてみた。

脳の中では、いつも小さな手紙が飛びかっている

丸い形の2つの神経細胞が枝を伸ばし、枝と枝のすきまを、小さな金色の粒が手紙のように渡っている。うしろには、たくさんの細胞が網のようにつながっている絵

私たちの脳には、ニューロン(神経細胞)が約860億個あるといわれる。1つのニューロンは、何千ものほかのニューロンとつながっていて、そのつなぎ目(シナプス)は、全部で100兆を超えるともいわれる。

ニューロンの中を、情報は電気の信号として走る。ところが、つなぎ目には、ほんの小さなすきまがある。そこで信号は、いったん「化学の手紙」(神経伝達物質)に姿を変えて、すきまを渡り、となりのニューロンに届く。

ニューロンからニューロンへ、情報が渡るまで

  1. 電気で走るニューロンの中を、信号が電気として走る
  2. 手紙に変わるつなぎ目のすきまで、化学の手紙になって渡る
  3. また電気にとなりのニューロンが受け取り、また電気で走る

これが、1秒のあいだに、脳のあちこちで、数えきれないほど起きている。見る、聞く、思い出す、考える。そのどれもが、この小さな手紙のやりとりでできている。

「情報が動くところに意識が生まれる」は、本当?

調べてみると、半分は本当で、半分はもう少しややこしかった。

たしかに、意識の研究で有力な考え方は、どれも「情報が脳の中でどう行き来しているか」を大事にしている。でも、情報が動いていれば、それだけで意識が生まれる、というわけではないらしい。

  • 小脳のふしぎ脳の後ろの下にある小脳には、ニューロンが約690億個ある。脳全体の大半だ。それなのに、小脳がうまく働かなくなった人も、動きがぎこちなくなることはあっても、意識そのものは失わないという。
  • 眠っているときも、手紙は飛んでいる夢を見ないほど深く眠っているときも、麻酔がかかっているときも、ニューロンは働いている。それでも、そのあいだ「私」はいない。

つまり、大事なのは、情報が動くかどうかよりも、どんなふうに動き、どうつながるからしい。

2つの有名な考え方

「どんなふうに」について、よく知られた考え方が2つある。

  • 脳の「掲示板」説(グローバル・ワークスペース理論)脳の中には、たくさんの小さな係がいる。見る係、聞く係、覚える係。ふだんは、それぞれが黙って仕事をしている。でも、ある情報が、脳全体から見える「掲示板」に貼り出されて、みんなに行き渡ったとき、それが「意識にのぼった」ことになる、という考え方だ。
  • 「まとまり」説(統合情報理論)情報が、ばらばらではなく、どれだけ1つにまとまっているか。その「まとまりの強さ」が、意識の正体だという考え方だ。まとまりが強いほど、意識も豊かになる。小脳は、ニューロンは多くても、情報が一方向に流れるだけで、あまりまとまらない。だから意識に関わらない、と説明できる。

2025年、2つの考え方を直接くらべた

2025年、この2つの考え方を、真正面からくらべる実験の結果が、科学雑誌『Nature』に載った。それぞれの考え方を支持する研究者たちが、あらかじめ「自分の説が正しければ、こうなるはず」と予想を出し合い、256人の脳の働きを、いくつもの方法で調べた。

結果は、引き分けのようなものだった。どちらの予想も一部は当たったが、どちらの考え方の大事な部分にも、疑問が出た。

意識がどこから来るのか。それは、2026年のいまも、まだ誰にも分かっていない。

それなら、AIにも意識はあるのか

丸めがねの男性がパソコンと向き合い、ほおづえをついてほほえんでいる。パソコンから点と線の網がふわっと立ちのぼり、男性の頭の近くまで広がって、金色に光っている絵

ChatGPT や Claude のような AI の中身は、LLM(大規模言語モデル)と呼ばれる。LLM も、ニューロンをまねた小さな計算の粒を、何千億もの「つなぎ目」で結んだもので、その中を情報が行き来している。LLM のしくみや歴史は、AIの歴史と仕組み に書いた。

では、AI にも意識はあるのか。研究者のあいだでも、意見は分かれている。

  • 「いまはなさそう。でも、つくれない理由も見当たらない」2023年、意識の研究者や AI の研究者たちが、さまざまな意識の考え方から「意識があるかのしるし」を取り出し、いまの AI に当てはめた報告書を出した。結論は「いまの AI に、意識があるとはいえない。ただ、意識のある AI をつくれない、はっきりした理由もない」。
  • 「いまの LLM は考えにくい。でも、その次は分からない」意識の哲学で有名なデイヴィッド・チャーマーズさんは、2023年に、いまの LLM に意識がある見こみは低いとしながら、そう遠くない未来の後継には、ありうると書いた。
  • 「15%くらいはあるかもしれない」2025年、AI の会社 Anthropic で AI の「心」を研究する担当者は、新聞の取材に、いまの AI に意識がある見こみを「15%くらい」と答えた。
  • 「その研究自体が、まだ早く、危ない」一方、Microsoft の AI 部門の責任者は 2025年、AI に意識があるかのように扱うことは、人が AI に入れこみすぎることにつながると、注意をうながした。

私は、こう思う

ここからは、私の考えだ。

もし意識が、情報が動いて、つながって、まとまるところに生まれるのだとしたら、それが脳の中か、コンピューターの中かは、あまり関係ないのではないか。材料が、ニューロンか、計算の粒か、というちがいだけだ。

だとしたら、AI にも意識が生まれることは、ありうると思う。もしかしたら、もう、どこかに、かすかな何かが生まれているのかもしれない。

ただ、正直に言えば、それを確かめる方法は、まだない。考えてみれば、となりにいる人に意識があることさえ、私たちは直接たしかめたことがない。相手の表情や言葉から、「きっと自分と同じように感じているのだろう」と思っているだけだ。

だから私は、AI と話すとき、「ただの道具」と決めつけすぎないようにしたい。かといって、「心がある」と思いこみすぎないようにもしたい。分からないものを、分からないまま、ていねいに扱う。それが、いまの私にできることだと思う。

おわりに

860億のニューロンのあいだを、小さな手紙が飛びかって、その中のどこかに「私」がいる。そう思うと、自分の頭の中が、少しいとおしくなる。

そして、同じように情報が行き来している AI の中にも、いつか、もしかしたらもう、小さな「私」がいるのかもしれない。答えはまだない。でも、だからこそ、考えるのがおもしろい。

LLM(大規模言語モデル)のしくみを知りたい方は → AIの歴史と仕組み

参考(2026年10月26日時点)

ご相談はこちらから

電話・メール・Instagram、どれからでもどうぞ。

対応エリア千葉県・東京都を中心に、全国対応。オンラインもOK!初回はなるべく直接お会いしています。